酒のおはなし No.0013 [2019.8.5]

読みながら飲む話


初めまして、Kと申します。 当コラムのシリーズにて弊社の他の皆様がお酒に関しての熱い思いや素晴らしい知識を存分に語って下さっているので、小心者の私は同じ土俵には立たずにこそこそと脱線しようかと目論んでおります。

そこで、お酒絡みの小説の話。 無頼派でならした作家太宰治に「親友交歓」という短編があります。

かいつまみますと、作家である私のもとにある日、小学生時代の親友と名乗る男がひょっこり訪ねてきます。 その、「いいところがみじんもない男」に関して、私は限りなく記憶がないのですが男はお構いなしに、私には身に覚えのない二人の思い出話を語り、さらに調子のよいことをペラペラと話すのです。 酒を飲ませろとせがみ、私から酒(チビチビと嘗めるのを楽しみに取ってある秘蔵のウィスキー)を引き出すと水の如く喉に流し込んでは次から次に催促、飲み続けます。 「私は或る男と二人で酒を飲み、別段、喧嘩も何も無く、そうして少くとも外見に於いては和気藹々理に別れたというだけの出来事なのである。」と私が語る通り、この男、なんともうまい具合なのです。 あげくに毛布をくれだの女房に酌をさせろと喚きだすそんな男に、その日「軽薄なる社交家」であった私は、(ウィスキーが押し入れに何本残っているかなど勘定しつつ)ウィスキーを明け渡しながら、冷静に翻弄されるといった趣の少し弁解じみた姿勢で相対します。 男はいよいよ帰る段となり(まだ一本あるだろと私に言い)、最後のウィスキーを丸々一瓶受け取ると私の耳元で、「威張るな!」と言い放つのです。

太宰治


太宰治は自尊心や虚栄心、劣等感などを書かせたら右に出るものはいないと思います。 私が惜しいと思いつつも男にウィスキーを飲ませてしまうのにはある心が絡んでいて、男が私のもとを訪ねてきてとる態度にもある心が絡んでいます。 その心がどんな心なのかは是非、だらだらとお酒でも飲みながら「親友交換」を読んで頂ければと思います。お酒も人の心も複雑ですね。 酒のつまみにぴったりの苦笑いしながら読める小説の紹介でした。

お酒


ちなみに僕の友人は、訪ねてきた親友というのは私が自分で秘蔵の酒を飲むための理由付けをするためにでっち上げた架空の人物なのだという解釈をしていました。 面白い解釈だと思います。 お酒を飲むのに理由は要らないはずなのですが、時に、ついつい次の一杯に手を伸ばすために自分を許し、騙すための理由が必要な場合があるようです。 皆様にはそんな経験ありますか?僕にはあります。 ただ春の夜の夢のごとく、ふと我に返るといつの間にやら目の前にあったはずの酒が雲消霧散しているような、あやふやなお酒の飲み方が好きです。



[横浜店]  K


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